第四十五夜「山向こうの勝さん」サリー・ドラゴン談

投稿者: | 2023年6月30日

こんばんは。
不死身の占い師(死が無い占い師)、サリー・ドラゴンでございます。
えぇっと、
あ……、そうそう。
「山向こうの勝さん」の御葬式の時のことを、お話しするお約束でしたわね。
ええ、ええ、それはもう、恐い体験でした。

あれは、わたくしが小学校四年生の秋のこと。
父の友人で、田島 勝夫(通称:勝さん。以降、勝さんと省略。)という方が、居りまして、わたくしどもの住んでいる所から軽い山一つ越えた、ほとんど、これって山肌に住んでる?っていう感じの家に御家族で、いらっしゃったんですけどね。
家は、古くからの農家で結構大きなお家でしたわねぇ。
回りは、田んぼと山だけ、細い農道の行き止まりにありましたっけ。
お医者様も遠くって、本当に急な逝き方をなさったとか……。

田舎の御葬式というのは、大抵御近所総出のお手伝いなんですけど、わたくしの母も、遅くまで残って忙しくしておりましたのね。
わたくしは、8歳年上の姉と二人で、暗い夜道を母を迎えにいくところのことでした。
あたりは、本当に真っ暗。
煩いくらいの虫の音が響く中、わたくしは、姉の後ろをとことこと付いて行きました。

と、・・・・。

ふと、稲刈りも終わった田んぼの向こう、わたくしの、斜め前方に蒼い浴衣をだらしなく着て、随分とやつれた男が、わたくし達の方をじぃぃ-ーッと、見ているではありませんか。
だらりと両腕をやや前屈みに垂らして、
顎を突き出すようにして、
何やらぱくぱくと、開けたり閉じたりしているのです。

わたくし、ぞっといたしまして前を歩いている姉に声をかけようとした時、男は、今、お葬式がしている勝さんの家を指差して、引きつるように、笑い始めたのです。
わたくしはもう、背中に氷水でも浴びせ掛けられた思いで、姉にしがみつきましたの。
ところが、姉には、どうも見えていない様で、突然しがみついてきたわたくしに驚いたのか、
ぐー(GOOD)なパンチをいただきましたのですが、わたくしの耳には、妙にぎらつく目をむき出すようにみひらいた蒼い浴衣の男の狂気の様な笑い声がこびりついてとれませんの。
あげくの果てに、浴衣の男は、飛ぶような大股で、ずんずんと、こちらへやって来るではありませんか!!!
そげ落ちた頬に落ち窪んだ目の、まるで骸骨の様な顔が、もうす……!!!!

「うぅぅーーーっっつ!!!」

わたくし、あまりの恐怖で気を失ってしまいましたわ。
気が付けば、勝さんのお家の中。
突然、怪しいうなり声をあげて倒れたわたくしを姉が、大慌てで、運んで来たとか。
恐らく姉は、ぐー(GOOD)なパンチのせいで、わたくしが倒れたのではあるまいかと心配したようで、やはり、あの浴衣男は見えていなかった様子。

そりゃ、そうですわ。

考えて見れば、あの真っ暗闇の中、誰が立ってたって、ぼんやりとしか解りゃしませんわよ。
どうして、あんなにもはっきり見えたかなんて、考えたくも、ありませんことよ。
御近所のおばさまから、気付けにと「ぷらっしぃ」をいただきましたこと、覚えておりますわ。

この場をお借りしてお礼を申し上げます。

しかし、わたくし。

はからずも、今一度気絶することになろうとは、思いもよりませんでしたわ。
蒼い浴衣の男が、祭壇の上から白黒写真になってわたくしを見下ろしていたんですもの。

あれ……、

勝さんでしたのねぇ。


追伸。

次回、

「新庄の倉持」、

森田先生の御実家の怪で、お会いしましょうね。

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