第四十壱夜「犬鳴き峠」にぎりっぺ大将談

投稿者: | 2023年6月11日

じめまして。
あまりの面白……いやいや怖さに一時を忘れるぐらい没頭していました。

これは昔のバイト先の店長に聞いた話です。このバイト先の店長は博多出身の人でかなり物静かな人でした。バイトの連中5、6人で仕事の後に怪談話になったときのことです。盛り上がってるところに来てオイラたちにそのとき自分が体験した事を話してくれました。

博多といえば怪談で思い浮かぶところといえば犬鳴き峠があまりにも有名です。
その峠のてっぺんには今も(現在は新しいトンネルがその峠の下の方にできていて誰も使わなくなっています)手掘りのトンネルがあります。恐いところにはどうして、こうもアベックが集まるんでしょうか。それは多分、夏場に虫たちを引き付ける、あの街灯の様なものかもしれません。その時店長は正に虫になっていた筈です。よせばいいのに、彼女と2人でその犬鳴き峠に行ったんです。そこで店長は一息いれて、犬鳴き峠で何が起こるか話してくれました。

何がこの峠で起こるのでしょう?

犬鳴き峠で有名なのは何といっても壁に現れる女の人の影と子ども(赤ちゃん)の影でしょう。これはこの峠で犬に襲われた親子の霊が今の居るとか居ないとか。でも、あまりに気味悪がれるために県がかべに(道路沿い切り立った崖)コンクリートで覆ったその下から同じ影が出てきたといういわくつきの物です。

それで次にてっぺんのトンネルの前で車を停めてエンジンを切るとトンネルの向こうに人が歩くのが見えたり足音がしたりするらしいんです。時には手掘りのボコボコしたトンネルの内壁からてが伸びる事もあるらしいんです。なぜか必ず白い車は狙われるとも店長は言ってました。
そして車の中は席を空けてはいけないそうです。なぜならその席に乗ってくるらしいんです。
店長はこの前置きをしてから自分の体験談を話し始めました。

車のエンジンを切って二人は耳を澄まし、目を凝らしてトンネルの中を見ました。月明かりのためか反対側の出口から入ってくる光のためにトンネルの出口が浮いたように見えました。

その時、

“パタパタッ”

という音がトンネルの中に響き渡りました。

“?”

2人の間に緊張が走り顔を見合わせた後、もう一度ようくトンネルの中を見ました。すると反対側の出口の方で“パタパタパタッ”という音と共に真黒い人影がトンネルの左の壁から右の壁に消えていくではありませんか。

“えっ?”言葉を失っていた二人に追い討ちをかけるように

“パタパタパタッ”、“パタパタパタッ”

人影が2人に増えて左の壁から右の壁へと消えていきました。

さらに

“パタパタパタッ”、“パタパタパタッ”、“パタパタパタッ”

今度は人影たちは3人に増えて二人に近づくようにして左の壁から右の壁へ……。人影は足音と人数を増やして2人の方へどんどん近づいてくるではありませんか。10m、5mと迫ったところで2人は我に帰り車のエンジンをかけて車がUターン出来るところまでバックしていきました。Uターンを済ませると来た道をスピーディーかつ安全に下っていきました。
店長は背中に感じる圧迫感で追ってきているんではという恐怖心に駆られてバックミラーで後ろを確かめました。
すると後部座席に見ず知らずの女が乗っていてミラー越しに店長の顔をじっと見つめているではありませんか。
泡を食った店長は、

“何で俺は4人乗りの車なんか買ったんだよう!!!”後悔したそうです。

涙が出てきたそうです。
スピードもその女のためかどんどん早くなりヤバイ状態に追い込まれていきました。
このままでは遅かれ早かれ運転ミスで崖下に落ちるか後ろの女に殺られると思い必死に落ち着こうとしました。
そして何かいい案は無い物かと頭の中で考えました。
その間目で後ろの女を牽制しながら……。
しかし店長の頭を過ぎったのはグッドなアイデアではなく顔が歪んだそうです。

“あれ?俺の車って4人乗りのホワイト?”

店長の車は白いマークⅡだったんです。
店長の車は不吉な事が起こる車ナンバーワンに位置してました。
その時バックミラーを覗けば女の手がまさに店長の首元に触れようとしていました。

“やばいー”

そう思って心の中でお経を唱えると“南無阿弥陀仏”
車が激しく揺れだしました。
とても運転できる状態ではなかったので急ブレーキをかけて車を停めました。
するとエンジンが“すとん”と切れてしまったそうです。

車は女の姿が浮かび上がる例の崖の前で停まってしまいました。急いでバックミラーを覗けば女の姿はどこにもありませんでした。店長は少し安心して何故車が停まったのか確かめるために車をおりることにしました。もちろん1人で降りる勇気なんてすでになかったので彼女と2人で。

車の周りを回ってみるとタイヤが4本ともパンクしてました。さらに2人を驚かせた事は、ナイフで切ったかのようにスパッとタイヤの側面が(文字が書いてある所)15cmくらい切れていました。

4本とも。

唖然として2人で顔を見合わせたその時、

“パタパタパタッ”

あの足音が2人を追ってきました。
とりあえず逃げようとして車に彼女のバッグと自分の上着を取りに行こうとすると車の中にあの女がニィーと笑っていたそうです。
気がつけば2人はひたすら走っていたそうです。
お金もなくて電話もタクシーも使えませんから。
家に着いたのは明け方近くだったそうです。

次の日、レッカーを頼んで車を取りに行ってもらったそうです。
昼過ぎにレッカーの会社から電話があってお兄さんが一言

“車に手形や足形が沢山ついてましたよ。勘弁してくださいよ。”

店長は彼女と車を連れてお祓いをしてもらいに行ったそうです。

これでおしまいです。後日談あるのでまた書きます。

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