最初は、ちょい小手調べってことで、少し「寒く」なるお話をひとつ。
私に、飛び抜けて霊感がある、などとは思っていません。ですが、私のまわりには、その「飛び抜けて」いってしまっている人が数多くいます。そんななかでも、違った意味で非常に印象に残っているお話をひとつ。
さて、今はもう「彼」ではない、以前つき合っていた彼のお話です。その彼というのも、非常に「肝が座っている」タイプで、当時何かにビビる、なんてことは、外見からは、無縁に思わせるところがありました。霊関係の体験も数多かったし。しかし、そんな彼にも、非常に怖かったことがあったというお話です。
その昔、彼がまだ小学低学年のころ、夏休みといえば、田舎のおばぁちゃんの家に連れていかれるのが、常だったそうです。しかし、築年数を一体どのくらい過ぎているのか見当もつかないほど、それはそれは古い家だったそうです。
勿論、トイレは離れになっていました。寝てからは、トイレには絶対行かないと、心に決めてはみたものの、夜中に目が覚めてしまい、強烈な尿意を我慢できずに、しかたなく、離れのトイレに行ったそうです。
トイレに入ると、便器までは一段高くなっており、その床には墨で塗りつぶしたように真っ黒な穴が、まるで自分を吸い込んでしまうのでないかと思わせるように、あったそうです。いわゆる昔ながらの「ぼっとん便所」です。そして、便器と同じ高さに小窓があり、その窓が半分開いていました。そこから、さらさらと、なびいいてくる風。いやがおうにも、小さい子供の恐怖心を、かきたてます。
しかし嫌だと思いつつも、小窓から見える裏庭からつづく竹林が気になってしかたありません。じっと、目を凝らしてみました。……すると、向こうにある竹林からもこちらをじっと見つめる人影を発見しました。
確かに人です。それだけで半狂乱になり、あわててふとんにもぐりこんだそうです。
「あれは、幽霊だ。初めて見た。幽霊といえども、人間っぽかったなぁ、しかも洋服はしましまだったなぁ。」
なんてことを考えているうちに、眠りについてしまいました。次の日、村の駐在所の職員が家にやってきました。その彼の話は、こうです。
「実は昨日、投獄した凶悪犯がおりまして、この近くを徘徊していたそうです。今はもう、捕まっておりますが、強盗殺人犯(しかも一家惨殺)でしたので、被害がなくて本当に良かったです。」とのこと。そして、幼き彼が思ったことは「幽霊じゃなくてよかった。」
でも、私は幽霊なんかより、よっぽどそっちのほうが怖いとおもい、彼の価値観が逆に「あっち」に行きすぎてるからじゃ、などと不信感を彼にあらわにしてみました。
それでは。時間があれば、次回はほんとの「あっちの世界」のお話をします