第七十夜「全国行脚」命知らず談

投稿者: | 2023年12月5日

やっと就職活動から帰ってきた命知らずです。
内定まだもらっていない。
結構重い話題になっていますね。
考えてみれば、こっちの世界でもあっちの世界でも、恨みつらみは人間に起因していますから。
たとえ気がつかなくても、境界線を一歩越えてしまうのは簡単なことで、取り返しのつかないことなのですよね。
その現実に肌で触れたはずでも、数年経てば感覚を忘れてしまう。
そんなじぶんがコワイです。

で、重い話は苦手なので、軽い話を一つ。

私が通っている大学のまわりにはなぜかお墓がたくさんあります。
十六方位、全てをお墓に囲まれていて、悪の結界でもはられているかのよう。
当然、大学の周りのアパートも囲まれています。
中には、「おふだ」がはってあるアパートも……実は結構ある(^^)。
いや、笑い事ではないな。
そんなアパートにまつわる話もあるのですが、これは大学構内で起きた話です。
工学部では、結構有名な話らしい。

その日、とある仲良し二人組み(仮にAさん・Bさんとします)は、集中講義に出るため構内をあるいていました。
すでに大学は夏季休業に入っていて、しかも時間は午前八時。人気がありません。
のんびり話しながらあるいていると、Bさんは前からお坊さんが歩いて来るのに気がつきました。
時代劇によくいる虚無僧の格好をした、頭に編み笠をかぶっているお坊さんです。
笠で顔は見えませんが、足袋を履いて、手には錫杖をもっていました。
ものすごい違和感を感じ、笑いたくなったのですが、本人の目の前でそんなことをするわけにはいかない。
Bさんは、お坊さんがすれ違って見えなくなるのをまって、Aさんに話しかけました。

「いまの坊さんおかしかったよなあ」と。

しかし、Aさんは話についてこない。訳のわからないような顔をしています。

「坊さんだって、虚無僧みたいな格好した」

しかし、Aさんはやはり話についてこない。

どうやら、そのお坊さんはAさんには見えていなかったらしいのです。
AさんもBさんも、互いに相手がふざけている。自分を怖がらせようとしている。
そう考えて、その時はあまり気にしませんでした。
ところが……

翌日の朝、Bさんはまたお坊さんを見ました。
今度は二人。
ともに同じ格好をして、向こうからBさんにむかって歩いて来ます。
そして、すれちがいました。
しかし、やはりAさんには見えていないのです。
さすがにおかしいと感じたBさんは教室につくと、そのことを他の人にも話しました。

「それって編み笠かぶってるやつだろ?」

驚いたことに、他にもニ・三人、Bさんとまったく同じ体験をしている人がいました。
やはり見間違いではない。しかし、ただ見えるだけで何かしてくるわけではない。
そう思って、みなお坊さんを無視することにしました。
それから、「見える人」は毎日のようにお坊さんを見るようになりました。
お坊さんは見るたびにその数を増やして行きます。

三人・・・五人・・・八人…

そして、人数が増えるにつれ、Bさん達の体調もだんだんとおかしくなり始めました。
はじめは身体がだるい程度だったのが、食欲がなくなり熱が出て…ついに、
立ちあがることすらきつくなりました。
お坊さんの数は、すでに何十人にもなっていて、道を埋め尽くして見えたそうです。
心配する周りの勧めで、Bさんはお寺で見てもらうことにしました。
お寺の住職は、Bさんを一目見るなり血相を変えて言いました(なんの説明もしていないのに)。

「たいへんです、あなたの後ろにたくさんの霊が見えます。このままでは、彼らと一緒に日本中を歩かなければならなくなりますよ」

もう一刻の猶予もないというので、他の見える人達も集めて、その場で除霊をはじめました。
結界をひいた中から一歩も出ずに三日三晩。
飲まず食わずで除霊を続け、除霊し終わった瞬間、住職もBさん達も意識を失って倒れたそうです。

そのあとの話しは聞いていませんが、はたしてお坊さん達は成仏できたのでしょうか。
Bさんたちは助かったそうですが。
多分今でも新しい仲間を探して、日本中を行脚しているのでしょう。
でも三日も食わないでいれば、そりゃ倒れますわな。下手すりゃそれが原因で死んでたかも。

機会がありましたら、次は去年の夏の話し。私の後輩のH君の体験した話しをしようとおもいます。
アパートの話しもそのうちに…こっちとあっちの両方を。

 

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